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Channel: 蔵書票研究所 鎌倉
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ヌードな男

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ヨーロッパ蔵書票の黄金時代と言われた、19世紀後半からのアールヌーボー時代、蔵書票は従来の紋章型デザインを脱し、神話伝説などを描いた絵柄も多数作られるようになっていました。その中に描かれた男性のヌードは、ほとんどがミケランジェロのダビデ像を彷彿とさせる均整のとれたプロポーションで描かれています。これは当時流行していたラファエル前派の影響による、ルネサンス美術、ギリシャ美術への回帰の影響が大きかったのではないかと推察出来ます。
男の肉体の理想型として描かれた男性ヌードは、当時のヨーロッパ社会では禁断の薔薇族的要素を匂わせる作品も多々見られ、隠された秘密と暗号を想像するのも密かな楽しみなのです。

   Karl Blssfeld
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       Willy Doelfel
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 作者不明
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 Karl Ritter
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  Antoine Carte  足穂チック
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     Maurice Langaskens
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 Juanita Could   嗚呼プラトニック
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メルヘン

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グリム童話、イソップ童話などのメルヘンに潜むダークな隠喩は、近年「ほんとうは恐ろしい・・」等の研究書や、裏解釈された映画、ドラマ等によってかなりポピュラーになって来ました。物語の原型となった民間伝承にはかなりエロチックな話や残酷で救いが無い話も多く、宗教的救済や勧善懲悪などは後世後付されたものが多いのです。
明治以降西洋の童話が日本に翻訳紹介された際には、物語が内包する人間の業と闇の寓意はほとんど抑えられ、子供向けお伽噺へと省略改変されてしまいました。更に20世紀にはディ○○ーの陰謀によって物語は完全に毒気を抜かれてしまったのです。
同じ事が日本の民話でもあり、差別や子殺しなどのブラックな内容は、子供向けの絵本やアニメではほとんど改変隠蔽されてしまいました。
それらが果たして子供達にとって本当に良い事なのかどうかは大いに疑問なのです。無菌培養された子供は抵抗力が身につかず、外界の荒波に耐えて生きる力が養われないのですから。世の中は清流だけで無い事を物語は教えてくれるのです。

19世紀以降、書籍が広く大衆の手に行き渡る時代になると児童書の需要も増えます。子供に解り易く挿絵が描かれ、やがて多くの童話が絵本化されます。挿絵画家や絵本作家が制作した蔵書票も人気で、童話の1シーンを描いた作品等も多数制作されています。
さて絵を見てタイトルを当ててみましょう。

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 Theodor Hermann  大友克洋 版は傑作でした
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 Victor Stuyvaert 
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 作者後掲載
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     日本で童画と言えば 武井武雄先生です
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 童話ではありませんがメルヘンのレギュラー小人さん Josef Sattler
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 テニエルの原画を元に販売用に作られたものです
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洋燈時代

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洋燈を描いた蔵書票と言えば川上澄生さん(1895-1972)が有名ですね。川上さんが描いた明治開国時代の異国情緒溢れる版画は大変人気があり、鹿沼市には「川上澄生美術館」もあります。
明治維新によって海外から輸入されたオイル式ランプは、その明るさと便利さから直ぐに国産品も作られるようになり、それまで蝋燭と行灯が主流だった日本の照明事情を一変させました。そのオイルランプもやがてガス灯、電灯に取って代わられ、明治・大正のロマンの中に残像を残すのみとなったのです。
暗い夜を照らすランプは読書、勉学、知識を導くパイロットランプの象徴として、又古き良き時代のノスタルジーとして蔵書票に好んで描かれたのです。

 ランプと言えば川上澄夫先生です
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                                                           畦地梅太郎さん
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  武井武雄さん
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 清宮 彬さん
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大本 靖さん
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 神崎温順 さん 
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 最後に海外作品から  1902年
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洋燈を見ると私の故郷小樽を思い出します。北一ガラスの中にある喫茶店がランプの明かりだけで営業していました。

Willi Geiger パースペクティブ教授

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Willi Geiger  (1878-1971)
ウィリー・ガイガーはドイツ・バイエルン州ランツフート出身の画家、デザイナー、教育者です。
ミュンヘン芸術専門学校、ミュンヘンアカデミーで学び、分離派の巨匠フランツ・フォン・シュトックに師事しました。
大変優秀な成績で、奨学金を受けスペイン、イタリア、北アフリカ等を遊学し、ゴヤ、ベラスケス、エル・グレコ等に強く影響されました。
1910年には優れたグラフィックデザイナーとしてVilla Romana賞を受賞しています。
第二次大戦中ベルリンデザイン学校の教授をしていたのですが、ナチスによって退廃芸術家として弾圧され解雇されてしまいます。戦後はミュンヘン美術大学で長く教鞭を執りました。
ガイガーは世紀末ドイツで流行していたユーゲントシュティールにはあまり染まらず、シュールなパースペクティブとタイポグラフィを用いたバウハウス的表現を得意としました。
彼の制作した蔵書票は、非常にスタイリッシュなデザインで、時代を2、3歩飛び越えた実験的とも言えるそのスタイルは、当時の蔵書票の概念を打ち破った革新的な作品だったのです。

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Silhouette Romance

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版画の弱点でもあり同時に魅力でもあるモノトーン表現は、高度な技術とセンスさえあれば時にカラーによる表現を超える作品を生み出します。
シルエットによって表現された世界は人物にしろ風景にしろ、ミステリアスであると同時に哀愁を孕んでおり、かつて藤城清治先生の影絵で育った昭和世代の私は、非常にノスタルジーを感じるのです。

  作者不明  月夜のヴァイオリン
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    作者不明
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    Robert Budzinski
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 Hans Bodo Scnaefer  切り絵ですね
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 岡村 昭三 先生
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  夕景 作者不明 
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 F.S.King  まさに寂静
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家族の肖像

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蔵書票に描かれた家族像には票主の思いが込められています。
男女の愛は移ろい易く、子供はやがて成長し家を出ます。そして老いや災いは容赦なく愛する者を奪い去り、家族の形は常に一定ではありません。
この幸せな時が永遠に続けば・・・あの幸せだった時を残しておきたい・・・そんな票主の願いが、蔵書票に閉じられた家族の肖像に込められているような気がするのです。
         Alfred Cossmann
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  J.Singer
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  この票好きなんです なんだか物悲しくて
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 後ろに控える死神 メメントモリです  Hans Bayerlein
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emblem×エンブレム

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五輪エンブレムの問題で、デザインのオリジナリティについての話題が世の中を賑わせております。
美術、デザイン等の創作物は過去の積み重ねの上に成り立っています。
人間が気持ち良く感じる色、形等の組み合わせは大体決まっていますので、もはや完全なるオリジナルを創造するのはよっぽどの天才でもなければ難しいのかもしれません。しかしながら、応用、インスパイア、剽窃、リスペクト等様々に言い方は違いますが、パクるならば謙虚な気持ちを忘れず、オリジナルを超える気概を持ち、更にバレないように上手くアレンジするのが本物のプロってもんです。

紋章・エンブレムは蔵書票の歴史の最初期からデザインの主流として使用されて来ました。
 (伝統的な紋章盾型蔵書票)
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近代になり、簡素化されデザイン化されたエンブレムは、企業マーク等様々に用 いられるようになり、アイコンとして日常的に使用されています。
今回は近代のマーク型蔵書票を集めてみました

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           紋章型の簡素化版
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  大学でデザインも教えていた  Karl Michel
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 最後にプログレファンならアッと驚くデザイン ELPより30年以上前に制作されました
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描かれた戦争

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なんだかキナ臭い世の中になってまいりました。
時の権力者たちが、自分達の支配に都合の悪い思想や主張が記された本を発禁とし、あまつさえ焼き払い焚書としたのは遠い昔の話ではありません。
第二次大戦中のナチスによる焚書を記録映像で見た時は、焼かれる本と貼られていたであろう蔵書票の無残な姿にわが身を焼かれる思いがしたものです。
戦争とは何だったのか、今一度振り返る時です。

 作者不明
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 作者不明     赤十字です
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 Adolf Kunst  ドイツ軍のヘルメット
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    Arfred Teuffel
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 Jaro Beran  塹壕
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      ドイツの爆撃によって破壊された街  ベルギー Louis Titz
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  日本の昭和とは  Pavel Hlavaty
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バベルの塔

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本を塔のように積み上げた絵柄は蔵書票に多数描かれていますが、本を知識、文明の象徴として見ると様々な解釈が考察出来ます(あくまで想像です)。

旧約聖書の創世記に記された「バベルの塔」の物語は、神(天)に近づこうとした不遜な人間を神が罰する、戒めの物語として日本人には知られています。
技術を駆使し天に届く高さの塔を建築しようとした人間に神が下した罰は、人間達が談合し二度とこのような悪巧みが出来ないよう、それまで一つであった言語を複数の言語に分けるというものでした。これはその後の人類がコミュニケーションの障害で、どれだけ多くの争いや戦争を起こす事になったのかを考えればかなり残酷な罰と言えます。
知識や技術を積み重ね文明を進歩させる事が神に近づく事であり、又それを神が否定するのであれば、それは何を意味するのでしょうか。
極近い未来に「マトリックス」や「ターミネーター」のような、文明が人類を滅ぼす時が迫っているという、SFでは無いリアルな説もあります。
ならば文明を否定し、ただ羊のように生きるのが 正しいのか。それともグノーシス主義や「009神々との戦い編」のように人類は神に抗うべきなのか?。
様々な問題を「バベルの塔」は象徴しているのです。

  Henryk Fajlhaner
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 Dr Jean Morisot
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             Arthur Henne
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  Karl Blossfeld
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  Aleksandra Lapikov
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悪魔の誘惑

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キリスト教では神に対する悪魔全般をデビル((Devil)、デーモン(demon)と呼びますが、その長であるサタンは元々は大天使長ルシフェルでした。
堕ちた天使ルシフェルは悪魔軍を率い神に対抗しますが、神との大戦に敗れた悪魔達は地下に落されてしまいます。以後悪魔達の戦いは、もっぱら神と悪魔の中間に存在する「人間達」を誘惑し堕落させ、自らの陣営に引きずり込むゲリラ戦となったのです(諸説あります)。
西欧キリスト教社会の中で、あえて蔵書票に描かれた悪魔は何を象徴しているのでしょうか。

悪魔は死神とは違いますのでメメントモリの象徴ではありません。
「悪」を象徴するのは当たり前なのですが、一概に否定的な意味ばかりではないのです。
悪役ですので角を生やし、長い尾のある醜い姿で描かれる事が多いのですが、ゲーテのファウストに登場するメフィストフェレスのように、人間と契約を結ぶ知性と教養を持ち、巧みな弁舌で人間を籠絡する切れ者の側面もあります。
「悪魔のように細心に、天使のように大胆に」という黒澤明(出ゲーテ)の名言がありますが、悪魔は善悪を別にした「知略・計略」を象徴し、人間を堕落させる程の「魅力・誘惑・欲望」を象徴する場合もあるのです。
もちろん票主がサタニストであった可能性も否定出来ませんが。

典型的な悪魔の特徴としては、山羊のような角、長い尾、蝙蝠状の翼、槍等が挙げられますが、人型から怪物型まで、悪魔にも多種多様な形態が存在します。

  作者不明 読書する悪魔

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 Bernhard Wenig        1900年
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 Karl Blossfeld
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  Josef Sattler   おそらく歯科医が票主です。 元祖バイキンマン達
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 作者不明  悪魔かPANか?日本の鬼にも似ています
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 判読してみましょう  H.Mazelet Luquiens
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運河の街

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私の故郷、北海道小樽市は今でこそ観光都市となり、様々なおしゃれなスポットが林立していますが、私が子供の頃はいつも黄昏時のような空気が漂う寂れた街でした。
夕張炭坑の閉山や産業構造の変革に取り残され、商業の中心は札幌に移り、往事の隆盛を偲ばせる倉庫街も廃墟同然で、運河にはゴミと油が浮かんでいました。
そんな小樽に育ったせいか、運河が描かれた蔵書票には妙なノスタルジーを感じてしまい、ついつい集めてしまいます。
ヨーロッパにも運河都市は数多く、その独特のロマンチシズムに溢れた街並みを愛した票主も多く存在したようです。

 松見八百造さんの小樽運河
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  宮下登喜雄さんの傑作
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 作者不明
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 作者不明
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 作者不明
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私の蔵書票 2. Tchaikovsky

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クラシック作曲家 蔵書票シリーズ第2弾
Peter Ilyich Tchaikovsky です。

蔵書票の蒐集は基本的に交換が主なのですが、私は人見知りなので交換会等でも他人様と上手く交渉出来ません。結構そんな方も多いようなので、ネット上で交換できるようなシステムをなんとかしたいと考えております。

チャイコフスキーも大好きな作曲家です。「交響曲第6番 悲愴」はじめ名曲は数知れませんが、一番好きなのはヴァイオリン協奏曲です。いまだにチョン・キョンファ盤が私にとって最高です。

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城の観える場所

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ヨーロッパの蔵書票には「城」を描いた蔵書票が多数存在します。特にドイツはロマンチック街道等、観光名所になるほど多くの古城が残っており、城のある風景はそんなに珍しいものではありません。
一口に城と言っても厳密には時代、国、用途等によって様々な形態、種類に分かれています。
中世ヨーロッパの城は王族や貴族の住居であると同時に、要塞であり地域の戦略拠点でした。要塞はなるべく高い所にある方が有利ですので、山の上や高い場所を選び、建物も高く建造します。城の周りに都市が発達しそのまま城塞都市になる場合も多く、城はその地域の人々にとってのランドマークとして心に刻まれたのです。

私はヨーロッパの城と言えば、どうしてもセットで登場する騎士、姫、ドラゴン、魔法使い等を連想してしまいます(ゲームのやり過ぎですね)。
北欧神話やワーグナーのリングに登場するヴァルハラ城もドイツでは好んで描かれるテーマです。

 Otto Ubbelohde  童話の世界です
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 ?.Andre  これも騎士とセット
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 Adolf Kunst  
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 作者不明 フリーメイスン?
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 Josef Sattler 天然の要害を利用した要塞のようです
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 Bruno Héroux ヴァルハラ城です
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 Jindrich Pilecek  チェコの現代作家です まるでハンターDのようですね。
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郷愁の蒸気機関車

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私が子供の頃、故郷の北海道ではまだSLが走っており、小樽から祖父母の住む寿都町へ行くのに利用していました。トンネルでは夏でも窓を閉めないと煙と煤が車内に入り大変な事になるので、タイミングを計って窓を開け閉めしていました。冬は車内に石炭ストーブが置かれていて、その上で干し芋を焼いて食べたのを覚えています。
18世紀産業革命の時代に開発された蒸気機関による鉄道は、19世紀中頃には旅客、貨物とも実用化され、人類に大量高速輸送時代をもたらしました。
日本には明治維新と共に導入され1975年まで現役で運用されていました。当時最先端技術の塊であった鉄道は近代文明の象徴でもあり、蔵書票にも少なからず描かれています。その後蒸気機関車が電気機関車に移行した後も、SLは人々の心に強い郷愁と憧れを残し続け、現代においても様々な作家によって描かれ続けています。
 
 川上澄生 さん
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 橋本興家 さん
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 山高 登 先生 味わい深いです
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 Pavl Telemann  アール・ヌーボー調
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 Erich Büttner  シュールな童話
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          Adolf Kunst
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 Arthur Henne ドイツのどこかの駅の風景です
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陶磁器 われもの注意

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長年美術業界の端くれにて禄を喰む私ですが、陶磁器それも古美術におけるそれを観る眼だけは未だ全く自信がありません。
数々の美術館、展覧会にも足を運びましたが、それが国宝や重要文化財の名品と言われれば「すごいなあ~、美しいなあ~」と感嘆いたしますが、一個100円で売られている雑器がそのまま同じケースに入れてあったとしても、果たして見分けがつくかどうか怪しいものなのです。学生時代は轆轤も回し、多少なりとも勉強したつもりなのですが、この道だけは経験を積み眼を肥やす以外に近道は無いようです。
千利休、古田織部から柳宗悦の民芸運動に至るまで、日本人が陶磁器に寄せる情熱と美学は、恐ろしく深い底なし沼を覗くが如くで、私ごとき浅学は遠い岸辺にて佇むばかりが関の山でございます。

蔵書票に描かれた焼き物は、小さな画面にその形や文様等の素晴らしさを再現する事にさしたる意味は無く、むしろその「物」を選んだ票主の美意識を表現しているように私には感じられます。

後日また特集しますが、何気ない日用品を描いた蔵書票にはまさに用の美と「侘び寂び」の境地といった名品が存在するのです。

 前田 政雄  青花五彩壺
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 高橋 太三郎
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 守 洞春  蕎麦猪口です
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 前川 千帆 
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 清宮 彬  甕
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 畦地 梅太郎  瓶かも
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 西洋の場合、陶器はあくまで静物の一つとして描かれる場合が多いですね 
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民芸と蔵書票

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柳宗悦が提唱した民芸運動の考え方の中に「用の美」があります。
いわゆる「純粋芸術」では無い日用雑器の工芸品、民芸品等に美を見出す思想で、西欧的な「機能美」とは違い、用の美でありながら「無用の美」をも包括する日本独特の美学です。
幕末から明治の頃に日本に渡来した蔵書票文化は、その発展期に多くの作家が民芸運動の風に晒されました。
棟方志功、芹沢介のように直接運動に関わった作家もおり、大正、昭和期の蔵書票には民芸運動の美学を色濃く体現している票が存在しています。

蔵書票は本来「用」のものでしたが、それが「用」から「美術作品」を意識して制作されるようになると、それはもはや「用の美」では無くなっているわけです。どちらが良いと言う訳ではありませんが(境界も曖昧ですし、どちらも好きですが)、シンプルなデザインに「侘び寂び」を感じさせる民芸系の蔵書票には、他国の蔵書票には無い深遠な魅力があるのです。

 芹澤介 さんは型絵染めによる多くの蔵書票を制作しました
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 守 洞春  もはや神仙の域
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    下澤 木鉢郎  
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 徳力富吉郎 
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   武井武雄 オリジナルのこけしも制作していました
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 川上澄生
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眼球書票 ~目玉おやじに捧ぐ~

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目は口程に物を言う、目は心の窓、などと先人が申しておりますように、人間の感情、心はその目に隠しようもなく現れてしまうものです。
ゆえに、見る事、見られる事、情報の入り口である目に関しては数々の故事、諺が存在しており、絵画に顔では無く、目(眼球)単体を描いた場合の心理学的解釈、象徴としての意味も数多く存在します。
一部をご紹介いたしますと、古代エジプトにおいては「天空神ホスルの万物観照の目」として描かれ、右目は月、左目は太陽を象徴します。
三角形の中に描かれた目は「プロビデンスの目」と言われ、キリスト教においては三位一体、神の全能の目を象徴し、かのフリーメーソンの象徴としても知られています。
天網恢々疎にして漏らさず、罪なす者の心を見通す天(神)の目は戒めであり、監視であり、恐怖であり、見守る愛でもあるのです。
もっと俗な使い方では男性器を象徴し、のみならず女性器を象徴する場合もあります。
世界中の民間伝承には一つ目から百目まで様々な目の神、怪物、妖怪が存在し、日本では障子や傘など日常雑器に目を貼り付けると忽ちそれは怪しの者に変化します。つまり目がある者にはアイデンティティが「存在」する事になるのです。

蔵書票にも様々な形で眼球が描かれています。
今回は11月30日に冥界へ旅立たれた我が心の師、水木しげる先生への追悼として目玉書票を特集いたします。

 Karel Demel   リアル目玉おやじです
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 Zdenek Bugan  ここまで来るとシュールレアリズム、靉光の絵画のようです
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 Dusan Kallay  目玉と言えばこの方
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 Nico Bulder
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 大野 隆司さん サイケデリック!
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酒と男と女と蔵書票

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今年も残す所あと僅か。地元の寂れた商店街もクリスマス、歳末の大売り出しで賑わっているように見えます。
商店やスーパーの店頭からエンドレスで流れるクリスマスソングと客引きの声、ツリーの横に並べられた鏡餅パックとお飾り、冬物半額セール、肉まん、チキン、ケーキ、電飾チカチカ・・・。日本の至る所の商店街で何十年も繰り返されて来た歳末定番の風物詩は、懐かしさと寂しさの入り混じった独特の異世界を幻出させるのです。この素敵な期間限定のアトラクションの為に、ついつい黄昏時になるとあちらこちらの商店街に出掛けてしまいます。日も暮れると連日どこかしらで行われている忘年会の参加者も繰り出し、酔っ払いの方々が一層雰囲気を盛り上げてくれるのです。
と言うことで?、本日はお酒にまつわる蔵書票を集めてみました。
酒は涙か溜息か、酒はノメノメ飲むならば、酒とバラの日々・・・、洋の東西、今昔を問わず、酒は人生には欠かせない?アイテムです。この世の憂さを忘れさせもすれば、人をダメにもします。西洋絵画では享楽の象徴として、酒、女性、歌舞音曲が3点セットで登場する事が多いのですが、禁欲的な宗教者、モラリスト達にとってはこれらが人間を堕落させる諸悪の根源なのでしょうね。私はみんな大好きなので多分地獄行き確定です。

 D.Bekker   ギリシャです 饗宴です 毎日宴会です
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 Rolf  von  Hoerschelmann  乾杯~
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 Mihaly Gacsi  飲んでるかい ウ~ン サントリー
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 Karel Benes これは抗う術無し
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  Wheyland  主よ許したまえ   
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 メメントモリが何だって~とくら~  作者不明
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聖者の肖像

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ハロウィン、七五三も過ぎ今年もクリスマスシーズンがやってまいりました。
25日が過ぎれば即お正月モードにアップデートされてしまいますが、日本人の本地垂迹能力は呆れるほどに見事なものです。
古来から神道であれ仏教であれ、はたまた道教、易経、儒教に耶蘇教に至るまで、ご利益が有りそうで面白そうなものは何でも取り入れてアレンジしてしまう日本人の特性は、こんな時代においては最も世界平和に役立つ民族なのではないかと思ってしまいます。
蔵書票はドイツ、ヨーロッパが起源ですので、キリスト教にまつわる図柄が数多く存在しています。本の起源自体に聖書が大きく関わっていますのでそれも当然でしょう。しかし蔵書票の図柄には聖母マリアや天使は頻繁に登場するのですが、何故かジーザス・クライストそのものを描いた作品は少ないのです。恐れ多いのか、本に挟むのがしのびないのか理由はわかりませんが、代わりに象徴としての十字架を描いたものは無数に存在します。

今回はクリスマス記念セール?といたしまして聖夜に相応しい蔵書票を集めてみました。

 まずは露払いのエンゼルでございます  作者不明
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 ジーザス・クライスト・スーパースター!  M. Callet Carano  ベルギー
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 原 美明 さん    最後の晩餐です  
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  Karl Michel  
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 銅板による天使です 作者不明
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 今年は暖冬でなんだかクリスマスっぽく無いですが皆さま平和なクリスマス、年末年始をお過ごしくださいね。


蔵書票 THEモンキー図 

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あけましておめでとうございます。
本年も微力ながら蔵書票文化の啓蒙に努めてまいります。
御高覧よろしくお願い申し上げます。

という訳で、今年は申年ですね。
十二支では猿と書かず申と書きますが、申という字は元々稲妻の象形文字で、呻、伸、神、等の字の元になっており、意味としては樹上の果実などが熟れて固まる事を表すそうです。そこから「樹上の果実を手を伸ばして取る猿」の意味が当てられたと伝えられています(諸説あります)。神の字とも近いので、東洋ではおめでたい猿神として扱われたりもします。
西洋では一転、人の真似をする愚かで野蛮な動物として蔑まれ、あまり良い意味には使われていません。蔵書票に描かれた猿の意味も東洋と西洋では違っており、十二支のある日本や東洋では干支の動物として、あるいは可愛いマスコット的なキャラクターとして描かれる事が多 く、西洋では愚かで未熟な自分の姿を自虐的に描くのに使われる事が多いようです。

 作者不明 モットー DUM SPIRO SPERO の意味は「息ある限り私は希望を抱く」 今年はこれで行きます
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 Alois Balmer
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  Mathlde Ade
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 作者不明
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 Michel Fingesten
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  大内 香峰 先生
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 コメントお待ちしています。

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